ラッコリンの小部屋
統合失調症 投稿日:2020.09.14

精神疾患の病状や歴史を映画を通して解説し、中村Dr.が治療法を検討します。

(1)症例 

  ジョン・ナッシュ(男性、プリンストン大学数学教授・ノーベル数学賞受賞者)

(2)診断 

  妄想型統合失調症

(3)映画 

  『ビューティフル・マインド』ロン・ハワード監督 (2001年製作 アメリカ映画)

  主演:ラッセル・クロウ(ジョン・ナッシュ役) エド・ハリス(パーチャー役)

     ジェニファー・コネリー(アリシア・ナッシュ役) ポール・ベタニー(チャールズ役)

(4)病歴

  • 私はプリンストン大学のジョン・ナッシュといいます。私には奇妙な体験があります。その真偽のほどは分かりません。私の体験したことは以下の通りです。私はプリンストン大学に入学し、人付きあいの下手な私はひたすら新たな数学理論を追求することに没頭していました。寮のルームメイトでチャールズというふざけた男がいました。彼は何かと私を支えてくれました。卒業後、業績が認められて大学研究室で仕事ができるようになりました。さらに私は暗号解析にも長けていましたので、政府の機密機関で暗号解析の仕事にも参加しました。ある日、政府機関からパーチャーという男が派遣され、私に特別な暗号解読の任務を依頼してきました。その頃、教え子のアリシアと交際をするようになり、結婚することになりました。アリシアは私の任務が妄想だと主張し、治療を受けることになりました。服薬をするうちに夢から目覚めるように、これまでの現実が幻のように思えました。しかし私の数学的な発想や思索は滞るようになり、それで私は迷った末に服薬を中断しました。間なしにパーチャーが現れ、再び特殊任務を行えるようになりました。一体、私にとって何が現実なのか、今も戸惑うばかりです。

(5)背景

  • 現在の病名は、20世紀初頭にブロイラーというドイツの精神医学者が提唱し、ドイツ語でシゾフレニーといいます。我が国では「統合失調症」という病名が当てられています。19世紀ごろからこの疾患の本格的な研究が始まり、現在でも精神生物学、精神薬理学、精神病理学、精神保健福祉など、様々の領域から世界中で多くの研究がおこなわれています。また、20世紀半ばに抗精神病薬の効果が知られ、新しい治療薬が次々と開発されています。統合失調症の理解が深まるとともに、新たな治療戦略が開発されていくことでしょう。

(6)症状

  • 伝統的に統合失調症を破瓜型・妄想型・緊張型・単一型などに分けてきました。最近では「統合失調スペクトラム症」という名称のもとに、非定型精神病から定型統合失調症までが包括されています。非定型とは統合失調症に類似した症状を示しながら、疾患の経過や重症度が定型とは異なっているものです。非定型として、統合失調型症、妄想症、短気精神病、類統合失調症などが米国精神医学会ではリストされています。統合失調スペクトラム症の基本的な症状は、①幻覚妄想、②自閉、③思考障害、④感情障害、などです。①幻覚は見たり聞いたり対象が存在しないにもかかわらず、対象があるかのように体験することです。幻覚は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の全ての感覚に現れます。例えば、「(実際には誰もいないのに)人の影が見える」(幻視)、「(誰もいないのに)命令する声がする」(幻聴)、「(職場の人は黙っているが)ひどい異臭がする」(幻嗅)、「(家族は美味しそうに食べているが)ご飯に妙な味がする」(幻味)、「背中に人が張り付いていて気持ちが悪い」(幻触)、などです。②部屋に閉じこもり、家族を含めて他者との円滑な交流を断っている状態です。用事などの応答はできます。自閉に加えて何もしないでいること(無為)もありますが、インターネットで外部世界との通信やゲームへの没頭などがみられことがあります。③考えの道筋が混乱して会話が乱れる思路障害と、考えている内容が非現実的で、人からはあり得ないといわれても、その考えを信じて訂正できない妄想があります。思路障害には、話のまとまりがわるいものや、話が突然ストップして別の話題が始まるもの、などがあります。このため聞いている人には何を話したいのかわからないことがあります。妄想は、普通には信じられない話を真顔で主張するため、本当の話か迷いながら聞いても納得できないために、話の不合理さを指摘しても本人は訂正しません。内容は被害的なものが多いのですが、誇大的な内容のこともあります。例えば、「誰かからいつも監視されている」「自分をコントロールする“力”がいやなことまでやらせる」「誰かが自分の悪口を世界中に言いふらしている」「電車で向かい合わせに座った人が咳をしたのは自分へのあてつけ?」あるいは「自分はジンギスカンの子孫である」「何万年先の未来を見通せる能力がある」などです。④感情が両極端に変化します。例えば、何を見ても聞いても感動がなく表情にいきいきとした反応がない(感情の平板化)とか、あるいは些細なことに対してその場にふさわしくない大げさな喜怒哀楽(不適切な感情)や一人笑い(独笑)がみられる、などがあります。普段は気付かれることがないのに、唐突に症状が現れて周囲を驚かせることもあります。治療が行われないと症状が悪化して目立つこともあります。

(7)治療1

  • 家族や本人、さらに地域住民の方の偏見や誤解を解くために心理教育が必要です。例えば、「治らない病気」「遺伝する病気」「社会を害する病気」などの偏見や誤解は、地域住民の方ばかりでなく、本人や家族の方にもみられることがあります。さらに学校や職場でも偏見のみらえることがあります。また、本人の服薬や対人関係に関するスキルを高めるために、デイケアなどの精神科リハビリテーションを利用できます。使用薬物の作用と服用方法、副作用の種類と対処法、薬物に関わる誤解の是正、対人関係における基本的な対応方法やコミュケーション能力の向上、などのために、SSTなどを実施するデイケアも役立ちます。さらに、生活や就労の支援サービスもあります。これらの活動や資源を介して生活力をアップすることが、再発予防にも役立つことになります。

(8)治療2

  • 最近では認知行動療法が注目されています。一方、精神分析療法は病状を悪化させる危険があるため控えます。例えば、幻聴などに注意が引かれて本人に不利益な行動が生まれるのを防ぐために、二重見当識を促すこともできます。幻覚や妄想のもたらす世界と、生活をしている現実の世界を区別して、2つの世界が混線しないように分離するものです。例えば、幻聴を耳障りなラジオがなっていると割り切ることなどです。

(9)治療3

  • 統合失調症の基本的な治療は、服薬になります。時代とともに良い治療薬が開発されて副作用も少なくなっていますが、服薬にあたっては主治医とよく相談をして適切な薬物を適切な方法で服薬することが大切です。現代ではインターネットを介して様々な情報が入り乱れ、服薬について誤った理解をして、服薬に対する嫌悪感や疑念を強め、有用な薬物を利用できなくなるなど本人の不利益をもたらすこともあります。また、眠気、体重増加、不随意運動などの、服薬に伴う副作用についても正しく理解することが大切です。統合失調症を治癒させるほどの服薬効力は得られませんが、正しく服用することで生活や社交の範囲を広げ、本人の優れた才能を失わせることなく、中には世界のために偉大な貢献をする人も現れています。

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