メンタルクリニック ラッコリン

心の病と映画

発達障害 投稿日:2020.08.12

精神疾患の病状や歴史を映画を通して解説し、中村Dr.が治療法を検討します。

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症例 レイモンド・バビット(年齢40代 男性、無職) 自閉スペクトラム症(サヴァン症候群)

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映画 『レインマン』バリー・レヴィンソン監督(1988年製作 アメリカ映画)

主演:ダスティン・ホフマン(レイモンド役)、トム・クルーズ(チャーリー役)

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病歴 父の遺産を受け継いで間もなく、弟のチャーリーが僕の施設を尋ねてきました。弟の経営する高級車販売店が傾き、父の遺産を目当てにやってきたのです。弟は空想の産物と思っていたレインマンが、幼いときに施設に預けられた僕のおぼろげな記憶であったとは思っていなかったようです。弟が僕を施設から受け出し、父の遺産を分けてもらおうと、僕を兄の住むカルフォルニアに連れていこうと画策します。僕は飛行機や高速道路が危険なことを知っており断固拒否をしたので、弟は仕方なく一般道を走ることにしました。途中、ロード・ムーヴィーよろしく様々な出来事を体験しながら、ラスベガスにやってきました。このカジノで僕の抜群の記憶力がトランプ賭博で大活躍し、僕たちは大金を手にしましたが、所詮、泡銭。一夜にして一文無しとなり、故郷へ。弟は恋人と結婚し、幸せな人生をスタートしましたが、僕と共に過ごした日々から、弟は人生にはお金よりも大切なもののあることを学んだようです。

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背景 神経発達障害の代表的な障害として、自閉スペクトラム症ASDと注意欠如・多動症ADHDがあげられます。レイモンドはASDと診断されますが、特殊な能力者でもあることから、サヴァン症候群とも言われています。ASDは、オーストリア生まれで30歳の時に渡米したカナーが、報告した論文で「早期幼児自閉症」という病名を使ったことに始まります。カナーが自閉症を提唱した時期を等しくして、オーストリアのアスペルガーが「自閉性精神病質」という病名で200例以上を報告しました。これらの発達障害は、現在ではASDとしてまとめられています。すなわち、カナー・タイプの自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群をスペクトラム状に並べて、それぞれの独自性だけでなく、一連の連続体として理解されています。すなわち発達障害は程度の問題で、ある程度以上の方を発達障害として受けて止めることになります。

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症状 主なものに、①自閉的な孤立、②コミュニケーション能力の低い言語、③固執傾向や一人遊びへの没頭、④感覚過敏、などがあり、これらの特徴は全て、レイモンドにもみられます。

①乳児期早期(生後2年以内)からみられます。例えば、「呼んでも振り向かない」、「視線が合わない」、「抱かれても身を寄せてこない」、「同年齢の子どもたちと一緒に遊ばない」、「人に対して興味を示さない」、「母親に対して、後追いをしない、または密着して共生状態になる」、そして「相手の表情や気持ちを読み取れない」、「相手の立場になって考えにくい」などです。

②例えば、「全く言葉がない」、「言葉があってもオウム返し(反響言語)」、「状況に関わりのない独語」、「人には通用しない言い回し(隠喩的言語)」、「抑揚がない」、「助詞などが抜けている」、「言葉通りに受け止めて冗談が通じない」などがあります。

③変化を嫌い、「こだわり」や「想像力の乏しさ」を示します。例えば、「同じ道順にこだわる」、「家具の配置が少しでも変わるとパニックを起こす」、他に「空き缶の蓋を曲芸のように巧みに回転させる」など気に入った器物での一人遊びに没頭する、などがあります。

④聴覚過敏のため雑踏やテレビの音などを嫌い、触覚過敏のため特定の服を着ることができず、味覚過敏のため食べ物の好き嫌いが激しく同じものばかり食べる、など本人も周囲の者も困惑させられることがあります。また、疼痛鈍麻から重い外傷を受けても無視したり、内臓感覚鈍麻から便秘したり、時間感覚鈍麻から過去と現在を混同することもあります。

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治療1 ASDの特異的な治療法は存在しません。最近、脳下垂体後葉ホルモンのオキシトシンがASDの対人関係の改善に役立つかもしれないとの報告がありますが。むしろ「治療」という考え方が妥当か、ということも考えてみる必要があります。ASD者の発達上の特徴を理解して、望ましい特徴はさらに促し、望ましくない特徴はどのように支えてより望ましい方向に促せるか考える必要があります。このため、ASD者の「やる気」を尊重し、行動の段取りや手順を組み立て、望ましい行動を促します。行動変容を促進するため、ソーシャル・スキル・トレーニングSSTなどの技法を用いることもあります。さらに不揃いがあるにしても、ASD者は確実に成長していきます。ASD者の成長する力を信じて家族や周囲の人々が見守り育て、地域社会も一人一人の特性を踏まえてASD者が社会的貢献をしやすいように支援することが大切ではないでしょうか。この意味で「障害者」という視点だけでなく、「特異的発達者」として見守る視点も必要ではないでしょうか。

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治療2 ASD者は周囲の偏見や誤解、ASD者の対人関係の拙劣さから、社会活動の範囲が狭められる可能性があります。その結果、不安や抑うつ、不満や怒り、自罰感情や自傷行為などがみられることがあります。ASD者の感情を受けとめ、ストレスの発散を援助する必要があります。そのために社会へ向かう支援だけでなく、社会から離れる支援も考えられます。例えば、ASD者が困惑しているときには、一時的に周囲の人から離れて自分の“シェルター”にこもる「緩和的自閉」も選択肢の一つになるのではないでしょうか。

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治療3 ASD者がパニックになり、不安・興奮状態になる時には、リスペリドンやアリピプラゾールなどの抗精神病薬、「こだわり」や「固執傾向」に対してはフルボキサミンなどの抗うつ薬、が用いられることがあります。この他に、抗不安薬や抗てんかん薬、抑肝散などの漢方薬なども使われます。服薬により、十分な鎮静が得られないときには入院治療が必要になることもあります。いずれにしてもこれらの治療は緊急避難的な意味合いが強いのですが、ASDにADHD、知的障害、衝動的な性格特性などが合併していると長期の服薬や入院を要することもあります。以上です。

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