ラッコリンの小部屋
パニック障害 投稿日:2020.08.4

精神疾患の病状や歴史を映画を通して解説し、中村Dr.が治療法を検討します。

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症例 ポール・ヴィティー(年齢不詳男性 職業マフィア)

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診断:パニック障害

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映画 『アナライズ・ミー』ハロルド・ライミス監督(1999年製作米国映画)

主演:ロバート・デ・ニーロ(ポール・ヴィティー)、ビリー・クリスタル(ベン・ソボル)

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 病歴 マフィアの親分ポールが抗争中のマフィアグループを襲撃する計画を子分たちと密談中、「呼吸困難」「動悸」「発汗」などが突発的に出現し、救急病院に搬ばれました。その夜の救急担当医が診察し、心電図検査などに異常がないことで「安心して、パニック障害と思う」と病名を伝えたところ、ポールは「おれがパニクルような男にみえるかよ」と怒り、救急医をボコボコにした困った患者さんでした。

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 歴史 パニック障害が医学的に認識されたのは19世紀です。米国南北戦争に従軍した兵士達の中に、動悸を含む胸部痛を示す者がおり、ダコスタ医師は“過敏性心臓”という病名を付けてその病状を観察しています。その後、フロイト博士は“不安神経症”と呼び、以降、さまざまな病名で呼ばれていましたが、1980年にアメリカ合衆国の精神医学会が“パニック障害”と命名して以降、この病名が使われるようになりました。パニック発作は不安発作とも呼ばれていました。

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 症状 中軸症状は突発的におこる自律神経性不安です。自律神経性不安は強い不安に伴って自律神経を介して出現する身体症状(呼吸困難、動悸、発汗、口渇、ふるえなど)が出現し、精神症状(発狂するとか死んでしまうという恐怖、いつ発作が起こるかわからず落ち着かないという予期不安、発作が起きたとき身動きが取れない状況を避けようとする外出恐怖=広場恐怖)を伴うことがあります。自律神経症状は病的なものではなく、強い不安緊張時(例えば、結婚式の披露宴でスピーチをする時)に誰もが経験する自律神経の反応(額に汗が流れ、口はカラカラ、心臓はバクバク、息苦しく、マイクを持つ手はふるえ、声は上ずり、…)です。しかし、息苦しさや激しい動悸があるので、死の恐怖を覚え、パニックになりやすいのです。

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 治療1 ヴィティーは、精神分析医のベン・ソボル博士のもとで精神療法を受けました。その治療過程でポールが次のように語ります。「子ども時代、おやじに叱られ、腹を立てながら家族とレストランで食事をしていた日、敵がおやじに忍び寄るのに気付いたが、おやじに危険を知らさず、おやじは殺された。オレがおやじを殺したという思いに悩まされ、こころの奥に伏せていた。」ポールは長年、抑圧していた父親殺しの罪悪感が、襲撃の密談中に想起され、強い不安がパニック発作として体験されたようです。

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 治療2 精神分析療法の他に、認知行動療法も行われます。認知行動療法では、不安に伴う身体症状から死や狂気などの破局的な解釈が誘導され、これが不安をさらに高めてパニック発作を起こすと解釈しています。この悪循環の輪を断ち切るために、発作が命取りになるという破局的な解釈を修正することを試みます。

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 治療3 最近では、パニック障害の治療には薬物療法が中心になっています。薬物として使用されるのは、主に抗うつ薬です。抗うつ薬も従来のものに比べて、服薬をしやすいものが増えています。パニック障害は抑うつ状態を伴うことも多く、不安だけでなく抑うつにも配慮することが必要になることが少なくありません。この意味でも、抗うつ薬を服用することは理にかなっていると思われます。ただ、服薬について不安を持たれる方が多く、誤った情報や意見に迷わされないようにしてください。服用方法や副作用などは主治医に相談してよく理解してお使い下さい。


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