ラッコリンの小部屋
摂食障害 投稿日:2020.09.5

精神疾患の病状や歴史を映画を通して解説し、中村Dr.が治療法を検討します。

(1)相談者 

   スザンナ・ケイセン(17歳、女性、無職) 境界性パーソナリティ症

(2)対象者 

   デイジー・ランドンとジャネット・ウェーバー 摂食障害

(3)映画 

   『17歳のカルテ』ジェームズ・マンゴール監督(1999年製作 米独映画)

   主演:ウィノナ・ライダー(スザンナ役) アンジェリーナ・ジョリー(リサ・ロウ役)

   ブリタニー・マーフィ(デイジー役)  アンジェラ・ベティス(ジャネット役)

(4)病歴 

  • 私は解離症状や大量服薬による自殺企図で、17歳の時クレイムア精神病院に入院することになりました。青年期女子病棟では、様々な問題から入院をしている女の子達と知り合いました。中でも脱走常習犯のリサとは忘れがたい思い出があります。リサは反社会性パーソナリティ症だと自己紹介をしていました。他に過食症のデイジー、拒食症のジャネット、空想虚言症のジョージーナ、などの女の子と知り合いました。デイジーの父親がフライドチキンを差し入れると、デイジーは病室で隠れ食いをし、食べのこしはベッドの下に隠していました。リサはそんなデイジーを馬鹿にしていました。デイジーが退院して間もない頃、リサが病院脱走の計画を話してくれました。私たちはうまく脱走して、デイジーの家に転がり込みました。デイジーは気の弱い優しい子でしたので、少し困惑をしていましたが私たちを迎え入れてくれました。でも、リサは容赦しません。デイジーと父親の関係が異常だとデイジーを責めました。翌朝、デイジーが首をつって自殺しているのを見つけ、私はショックを受けました。その後は…。

(5)背景

  • 摂食障害は若い女の子に多い障害の1つです。摂食障害の主な病状は、拒食症と過食症です。拒食症の存在は古代の人たちには気付かれていなかったようです。食糧事情がよくなく食べることに必死な時代だったことに加え、宗教的な信条から断食も行われ、やせは望まれなかったのでしょうか。16世紀になると拒食症と思われる女性が歴史文献に登場します。食べずとも元気な女の子が見世物小屋に登場し、あるいは世間を惑わす者として処刑されたこともあります。17世紀には英国の内科医モートンが初めて医学文献に男女各1名の拒食症患者を記載しました。18世紀には日本の漢方医香川修徳が拒食症について現代の所見と変わらぬほど詳細に30数名の男女症例を記載しています。19~20世紀には拒食症の原因が論議されています。英国のW.ガルは拒食症を当初ヒステリー性と考えましたが、その後、独立した疾患と考えて現在の病名、神経性無食欲症(直訳)または神経性食欲不振症(現病名)と命名しました。拒食症の経過中に、過食が出現して拒食と交互に見られることがあり、拒食症は拒食型と過食型に分けられるようになりました。過食後に自分の指を使って嘔吐することもあります。20世紀初頭にフランスの精神科医P.ジャネーが過食の特色を報告し、1950年代に米国の精神科医A.J.スタンカードが夜間摂食症候群または気晴らし食い症候群の名称で過食の特徴を報告しています。

(6)症状

  • 拒食と過食は移行することがあります。つまり、ダイエット型拒食症AR←→過食型拒食症AB←→嘔吐型過食症BV←→非嘔吐型過食症BNです。「摂食スペクトラム」の基本症状を、 ①体重異常、②食行動異常、③身体像異常、④付随行動異常に分けてみました。①拒食症では、年齢と身長に基づく標準体重から25%以上の低下を示す体重減少とされましたが、最近ではBMIという指数で判定します。BMIはキログラム体重をメータ身長の二乗で割った値で、正常値は20~24とされます。最近では健康な人もやせている方が増え、BMIの18未満をやせと判断しています。体重減少が最も激しいのはARでBNに向けて体重減少は少ない傾向があります。BNではむしろBMIが25以上の肥満になることもあります。②主に拒食と過食があります。拒食では食事量を全般的に減らし、あるいはカロリーの低い食品、例えば野菜類などを中心にした食事をすることもあります。過食では高カロリーの食品を選ぶ傾向があり、2時間近くかけて食べる人や、ポテトトップスを何時間にもわたって食べ続ける人もあります。③客観的には太っては見えないのに、本人は太っていると恐れることです。その結果、体重増加に過敏になり、僅かな増加でもパニックになることもあります。体形全体を気にすることも、身体の一部、特に腹部、大腿部、上腕、顔などが太っていると心配することもあります。④体重減少と共に、活動性や積極性が増し、それまでの自信のない態度とは違ったようにみえることがあります。過激な運動や長時間の入浴などは体重減少のためでもあります。さらに減量のため、下剤、利尿剤、甲状腺剤などを乱用することもあります。過食で体重の増加することを恐れて、嘔吐をする人もいます。嘔吐をするために自分の指を使うこともあります。

(7)治療1

  • 食生活の規則化が必要です。拒食症では、極度のやせに親はしっかりと食事をとらせようと必死になることも少なくありません。この必死さが本人の反発を招き、余計に拒食に走ることになります。先ずは3食を食べられるだけ食べるようにします。この時、食事量の変化に過敏になっていますから、変化を分かりやすくするために、主食も副食もワンプレートにもるとよいでしょう。本人はこれぐらい食べても体重は急激には増えないという視覚的な印象をあたえます。また、固形食をとりにくいときには、液体栄養食のみを利用します。液体栄養食で体重が徐々に安定してくると、固形食と液体栄養食の配分を少しずつ変えていきます。規則的(機械的)な食事は、食べることの隠れた意味、すなわち食事を介した母親の支配という意味を、希薄化するためもあります。過食でも、ワンプレート盛りにします。また余分な食品を置かないために、買物リストに従って食品を買い、衝動的に余分な食品を購入しないようにすることも大切です。

(8)治療2

  • 認知行動療法やトークンエコノミーなどの行動変容療法が用いられます。拒食症の人では、①選択的抽出、②過度の全般化、③過大視、④二分法的思考、⑤自己関係づけ、⑥迷信的思考などの認知のゆがみを認めます。例を挙げると、①「手足は細くてもウェストが太いので、皆にデブだと思われている」、②「やせた人は幸せそう、だから私もやせていたい」、③「あと100gも増えたら大デブになる」、④「完全なダイエットができなければ、ダイエットしないのと同じ」、⑤「太った人見ると自分もそうなるようで怖い」、⑥「ケーキを食べると全部お腹の脂肪になってしまう」、などです。この認知の歪みを修正します。トークンエコノミーは、体重の変動に応じてトークン(チップ)を渡し、トークンの数で本人のやりたいことができる(“買える”)という方法です。主に入院中に行われます。また、ストレス解消に過食をする傾向があります。過食衝動を感じた時に、運動をして過食衝動を発散させることもできます。

(9)治療3

  • 食欲を調整するために薬物療法を行うことがあります。拒食や過食は本人の意に反してあらわれたものではないため、服薬によって食行動が変わればよいというものではありません。不安定な感情や衝動行為などに抗うつ薬や抗精神病薬、あるいは抗てんかん薬などが使われますが、食欲を増す影響のあることに配慮が必要です。薬物は摂食障害に随伴する症候に対して補助的に使用することが基本です。

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