ラッコリンの小部屋
Youtube原稿 発達障害(特異的発達者)        広島市 南区 宇品 心療内科 精神科 中村道彦 投稿日:2020.08.13

発達障害(特異的発達者)のYoutube動画の原稿です。

動画はこちらをどうぞ→https://www.youtube.com/watch?v=PU8p4bNC4eg

ラッコリンのムービーのページからはこちら→https://rakkoring.com/movie

皆さん、こんにちは。

私は、広島市南区の メンタルクリニック ラッコリン院長 中村道彦  といいます。

 

 今回は「発達障害」についてお話をします。【図1】発達障害と思われる子どもが、医学関係の資料に登場したのは、19世紀のことです。この長い歴史の中で、発達障害に関する考え方は、大きく変化してきました。それは、子どもの成長の速さと急速な社会的変化の中で、発達障害の特徴が現れるためです。現在でも発達障害の診断概念が確立しているとはいえませんが、2013年に米国精神医学会が改訂した診断マニュアルでは、「神経発達障害」というグループの中に、「知的能力障害」「自閉スペクトラム症」「注意欠如・多動症」などが分類されています。この中で自閉スペクトラム症はASDと略称され、注意欠如・多動症はADHDと略称されます。ここではASDとADHDを中心にお話をしたいと思います。

 発達障害の診断では、「この子に発達障害が有るか無いか」という判断は不適切に思います。すなわち発達障害の要素の「軽い人」と「重い人」がいて、「より重い人」が発達障害と診断される、と考えるべきでしょう。発達障害の人が示す特徴は、成長に伴い優れた能力として開花することもあります。このためサヴァン症候群、つまり天才症候群とも呼ばれることもあります。一人一人の特徴がよく理解され、特異な能力者として、子どもが成長できれば、本人にとっても、親にとっても、さらに人類にとっても、その子どもは至宝となるでしょう。「発達障害」という名称が、否定的なイメージを与えるのは残念なことです。発達障害の人を「特異的発達者」と呼び変えてもよいのではと思います。

 閑話休題。サスペンス小説やサスペンス・ドラマの名探偵や名刑事には、発達障害の人が多いように思います。例えば、シャーロック・ホームズ、エルキュール・ポワロ、コロンボ、フルネームはフランク・コロンボでしょうか、金田一耕助、杉浦右京、榊(さかき)マリ子など、です。一度、この視点からこれらの主人公をみると、違う特色が見えてくるかもしれません。

 

 それでは、本題に戻ります。ASDとADHDの特徴を、一体的に理解するため、図のようなシェーマを考えました。【図2】ASDとADHDに共通する要素に、「注意機能」「抑制機能」「計画機能」を想定しました。

 「注意機能」は、関心のある物事に注意を向け、必要なあいだ注意を維持し、事態に応じて注意を転換できることです。注意機能を理解しやすくするために、例えば、学校の休憩時間の、騒がしい教室を考えてみましょう。あなたは教室に入ってきて、友達を探すため教室全体を見まわします。これを「全般的注意」といいます。あなたは友人を見つけ、話を始めます。あなたが友だちの話に耳を傾けている間、騒音の中でも友達の声を聴き分けることができます。これを「選択的注意」といいます。選択的注意によって、周りの騒音は「雑音」として、背景に退き、友だちの言葉は、「信号」として前面に浮かび上がり、友だちの声が聞き取れるようになります。そのとき教室に先生が入ってきました。生徒たちはおしゃべりをやめ、先生に注意を向けます。「注意機能」が弱くなると、どんなことになるでしょうか。雑音を抑えることができないと、信号が雑音の中に埋もれ、信号を聞き取りにくくなります。信号に注意を払えず、気が散り、聞いたこともすぐに忘れてしまいます。あるいは、信号も雑音も大差なくなると、その時に目立つ刺激に引き込まれ、注意が次々と転動し、落ち着きのない行動になります。これがADHDの不注意状態です。一方、注意機能が強くなると、雑音が極端に抑えられ、信号が強調されます。選択的注意が信号に固定されると、呼びかにも応じないため、周りには「鈍感」という印象を与え、子どもは信号に「固執」します。あるいは、雑音を均質に抑えることができないと、雑音の中で目立つ刺激が耳障りになります。信号と目立つ雑音がバトルして、信号に集中できず、目立つ雑音に過敏になります。これは「感覚過敏」といい、ASDやADHDの人にみられます。最近では「過敏性パーソナリティHSP」という表現もあります。

 「行動抑制」は、その場にふさわしくない行動を抑え、目的や状況に合うように、行動を調整することです。例えば、生徒たちがグループワークをしている場面を考えてみましょう。あなたは課題達成のために、グループの作業速度にペースをあわせ、自分勝手な行動を控え、皆と協調的な行動をとります。「行動抑制」が弱くなると、勝手な行動を自制できず、落ち着きなく動き回り、グループの作業を乱すことになります。これはADHDの「多動」や「衝動性」としてみられます。一方、「行動抑制」が強くなると、自分に関心のある行動が優勢になり、他の行動が極端に抑制されます。この結果、ワンパターン行動、すなわち「固執行動」や「常同行動」がみられます。あるいは、安心できる人との応対は優勢になり、よく知らない人へのアプローチは抑えられるため、よく知らない人の中では固まったり、パニックになったりすることになります。制限された対人関係はASDにみられます。

 「計画機能」は、作業の段取りを考え、時間と労力を配分し、合理的に計画を実行することです。例えば、部活の練習で使った運動具類を後片づける場面を考えてみましょう。次の練習で運動具類を持ち出しやすいように、収める順番や片付け方法を工夫し、片付けが時間内で終わるように計画して実行します。「計画機能」が弱くなると、全体を見通せず、時間や体力を無視して場当たり的に行動するため、疲れて途中で放り出し、あるいは他の人と協調がとれなくなります。これがADHDの衝動的・場当たり的な行動として現れます。一方、「計画機能」が強くなると、自分のやり方に固執して融通が利かなくなり、考えも硬直して頑固になります。これがASDにみられる「固執行動」あるいは「こだわり行動」です。

 3つの要素が、バランスよく保てない状態が、ASDとADHDであるといえます。3要素が強くなる状態がASD、3要素が弱くなる状態がADHD、と考えられますが、「強い」「弱い」の組み合わせは、人により異なり、ASD+ADHDの人ではASD的特徴とADHD的特徴が混合してきます。

 以上、ASDとADHDの基本的な特徴についてお話をしました。これらの特徴が、生活しづらさとして現れるのか、それとも望ましい特性として現れるのか、を考慮して、本人とのかかわり方を考えることが必要です。例えば、対人関係の制限を、社会的孤立と受け止めるのか、あるいは独自性と受けとめるのか、な9どどの視点で受け止めるかによって、人生における可能性を狭めることにも広げることにもなります。発達障害者としてではなく、特異的発達者として向き合うことができれば、豊かで創造的な世界が実現できのではないでしょうか。

 

 

 以上です。ご清聴ありがとうございました。

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