ラッコリンの小部屋
Youtube原稿 「不登校~登校困難状態 その② 家族の対応~」   広島市 心療内科 精神科 中村道彦 投稿日:2020.07.8

以下は、中村先生の第6回目動画、「不登校 ~登校困難状態 その② 家族の対応~」の原稿です。
https://youtu.be/jSYdocgw_bc

登校困難状態
その2 登校困難への対応

私は、広島市南区の メンタルクリニック ラッコリン院長 中村道彦 といいます。
今回は「登校困難状態 その2」として、登校困難状態に対する、家族の対応についてお話をします。子どもの性格や心理特性、家庭環境や家族関係、学校や地域、などで対応は変わりますが、ここでは原則的なことをお話しします。登校困難状態における対応には、次のものがあります。

(1) 不登校や登校拒否では登校刺激を控える
(2) 医学的判断を要するときは専門の医療機関を受診する
(3) 登校や勉学に関する考え方を家族間で調整する
(4) 家庭生活のルールを子どもと相談してつくる

1は、登校刺激の問題です。登校刺激とは、「学校に行くことを強く促し、言葉や態度で子どもに圧力をかけること」です。登校困難な子どもに、登校を促したくなるのは、親としては当然のことと思います。さらに、祖父母の方は、学校にいかず、家でゴロゴロしている孫を見ると、登校を促したくなるものです。もちろん登校刺激が悪いのではなく、登校刺激をする時期を考慮すべきなのです。その時期を測るのは簡単ではありません。判断指標の1つは、子どもに登校を促したときの反応です。子どもが親の気持ちを忖度(そんたく)して、「学校に行きたい」と答えることはよくあります。この言葉を鵜呑みにすることは要注意です。子どもの言葉だけでなく、学校を休んでいるときの行動や、登校困難となった理由を理解したうえで、登校刺激をする時期を判断すべきでしょう。学校を休んで、家で元気に過ごしているのに、学校の話になると元気がなくなり、あるいはイライラした様子を示すなら、「学校に行きたい」が本心かどうか疑わしくなります。また、体調不良やいじめが、登校困難の原因であるように、子どもが話すときも、慎重に判断する必要があります。体調不良を訴える時には、小児科や内科の受診を考慮し、いじめを訴える時には、学校に確認する必要があります。原則的には、登校しぶりをしめしても登校しているとき、あるいは不規則登校や別室登校のできているときは、節度のある登校刺激をすることはかまいません。一方、不登校や登校拒否の状態で、登校刺激に反発、あるいはフリーズして沈黙するときには、登校刺激は控えた方が望ましいでしょう。

2は、登校困難状態の背後に、医学的な判断を必要とすると思われるとき、専門の医療機関の受診を考えてください。医学的判断を要する精神医学的問題には、社交不安症、うつ病~うつ状態、睡眠障害、発達障害、などがあります。一方、心身医学的問題では、起立性調節障害、過敏性腸症候群などの機能性胃腸障害、過換気症候群、緊張型頭痛、などがあります。ここでは精神医学的問題について少し説明を加えておきます。

社交不安症は、自己評価が低く、自信を持てない子ども達に多い病状です。人に注目される場面で緊張が高まり、「自分がつまらない人間とみられているのではないか」、あるいは「相手に嫌われるのではないか」、などと心配をして、対人場面を避けるようになります。全く知らない人よりも、少し見知っている人と対面するときに緊張が強くなります。家族や親しい友人とは問題ありません。つまり、最も苦手な相手は、クラスメイトのような人たちです。そのことが登校困難の大きな理由になります。社交不安の強い子ども達は、幼い頃から人見知りが強かったり、恥ずかしがり屋だったりします。小学校高学年から中学生になるころから、社交不安が目立つようになりますが、もともと「内気でおとなしい子ども」というイメージで親はみているため、社交不安の存在に気付かないことがあります。

うつ状態は、登校困難な子ども達に合併しやすい状態です。登校困難に悩んでいる子ども達が、うつ状態に陥るのは自然なことです。うつ状態の子ども達の中に、うつ病の可能性がある子どもが、小中学生で20人に1人ぐらいいます。注意すべきことは、子どものうつ状態が、大人とは異なる様相をみせることがある
ことです。気分の浮き沈みが激しく、時に興奮し、ふざけた言動をみせ、過眠や過食になることもあります。このためうつ状態とは思えない場合も少なくありません。うつ状態がうつ病によるものであろうとあるまいと、うつ状態自体が登校意欲や自己評価を低下させ、登校困難を強め、ますますうつ状態を強める、という悪循環をもたらします。その意味で、うつ状態を軽減することは、登校困難を軽減する上で大切です。

睡眠障害では、不眠や過眠の他に、睡眠相遅延が代表的です。例えば、翌日の登校を考えると不安緊張が高まり、寝つきが悪く、夜中に何度も目を覚ます不眠の子ども、寝付く時間はいつも通りなのに、朝、親が起こそうとしても起きてこず長々と寝ている過眠の子ども、そしてスマホやゲームで夜更かしをして朝寝坊になる睡眠相遅延型の子ども、などです。抑うつ状態が強くなると、朝早く目が覚めて、その後あまり眠れないという早朝覚醒の、みられることがあります。ゲーム依存と関連して睡眠相遅延型は、登校困難状態の睡眠障害では、重大なものです。
他に、発達障害などがありますが、別の機会にお話をしたいと思います。

3に、子どもの登校や勉学について、家族間で意見のまとまっていることが望ましいです。生まれも育ちも違う父親と母親が、異なる意見を持つことは当然です。しかし、子どもの前で言い争いをすることは、子どもをますます混乱させます。子どもの前では、親の意見を合わせておく方が良いでしょう。一つにまとめた意見や方針で、問題の生じるときは、家族内で何度でも、話し合って調整してください。意見の不一致は、祖父母との間でも見られます。祖父母は世代が異なるため、意見の調整がもっと難しいこともあります。その時には、祖父母が子どもに意見するのを、控えてもらうしかありません。さらに、同胞間でも問題が起こります。殊に、弟や妹の目には、本人がずる休みをしているのに、親が本人ばかりをかまっているように思え、不満が募り、その不満を本人や親にぶつけることがあります。ですから同胞にも本人の状態を説明し、家族として一丸となって、応援するようにしましょう。

4の家庭内ルール作りについては、「登校困難状態 その3」でお話したいと思います。

以上です。ご清聴ありがとうございました。

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