Q:中村先生は、薬物療法と精神療法の関係をどのように考えておられますか。
A:今回は神経症の患者さんについて説明するよ。
患者さんの話をしっかり聞いて、診察時間が長くなれば、薬の量は減るよ。精神療法が有効な患者さんは特に「診察時間>薬の量」が当てはまるよ。これは僕の経験的に実感できる。しっかり話ができる人ほど、薬を沢山使わなくて済んでいるんだ。
話を聞いてもらうことを求めて来院している患者さんは、薬の処方を求めているわけではない。薬を求めている患者さんは話をするのはどちらでもよくて、効果のある薬をもらって、早く帰りたいという気持ちが強いように思う。
お互いに話し合っていける人は例え服薬をしても最小限で済むよ。ラッコリンに来院する患者さんは話をしたい人が多い。
僕は、薬物療法を開始する前、必ず薬を飲むか飲まないかを患者さんに尋ねる。
大概の人が「薬はいりません。」と言うね。”薬はこういう効果がありますよ。”と説明すると、「では、飲みます。」「やっぱり飲まない。」と、患者さんの答えは、人それぞれ。飲むか飲まないか、その先は本人次第。
僕は、最初から薬ありきでは説明しない。飲むか飲まないは患者さん次第だし、僕はいつもこのように説明するよ。
”薬は道具だから。道具である以上、ただ、使えば良いというものではない。同じ使うなら上手に使いましょう。必要がなくなり、止める時がくれば、当然道具はいらない。家が出来上がってるのに、いつまでも金槌を持っているわけにはいかないよね。薬は道具として割り切って使いましょう。”と。
ラッコリンの神経症の患者さんで、薬を飲まない患者さんは3割くらいかな。
Q:患者さんの中には「薬を止められなくなるんじゃないか。」と不安を抱く人が多いのではないですか?
A:多いよ。服薬してしばらくする調子が良くなる人が多いよ。そうなると薬を飲まなかったら調子が悪くなるのじゃないか、だから薬を止め辛くなるのではないか?と思う人がいる。
これは薬物に対する依存ではなく、心理的な依存。
薬は道具であり、工事が終われば道具はいらない。それ以上のものではない。心配になって止められないのではないか?と思う人のために、減量したり止めたりする時の3つの目安を説明し、それを前提に一緒に服薬について考えるようにしているよ。
Q:お薬の減量や止める時の3つの目安とは?
A:
①患者さんが精神的に安定した状態が数ヶ月続いている、
②患者さんが薬を止めてもよいと思った時に大きな環境の変化や大きなストレス(転勤や人間関係の変化)がない。(そんな時に服薬を止めたり減量したりすると、かえって具合が悪くなることがある。)
③患者さん本人が薬を止めてもよいと思っている。
この3つの目安が揃う時に、減薬していきましょう、という話を患者さんと”最初”にする。
服薬し始める時は、具合が悪かったり、服薬以外での不安が強かったりするので、飲み始める。止める時のタイミングも一つの大きな節目。気楽に「やめる。」といってラッキーなことに上手くいく人もいれば、突然やめたら状態が悪くなる人もいる。
服薬を始める時にも、止める時にも患者さんと十分に話し合い、考えながら進めていくよ。患者さんと僕の意見が合う時もあれば、合わないこともある。その時は意見が合う時を待ったり、更に話し合ったりするよ。
Q:中村先生の減薬のされ方を具体的に教えて下さい。
A:まずは、さっき説明した3つの目安①~③が揃っていること。その後、薬を少しずつ、最小単位まで減薬する。そして、その際に”お薬を止めたら悪くなるのでは?”という心理的な要素を解決しながら進める。
最小単位まで減量した後は、1日おきの服薬にする。偶数日に飲むか、奇数日に飲むかを決めると間違えはないし、月をまたいでも、偶数日、奇数日に変更はなし。そして、その時に患者さんに減薬以外のもう一つの狙いを話すようにしている。
一日おきに減薬をしている時も、薬をきちんと飲んで欲しいけれど、飲み忘れがあっても良いと伝えている。飲み忘れても大丈夫だったということは、”数日薬を飲まなくても大丈夫だった!”という★患者さんの自信★に繋がるから。だからきちんと飲んで欲しいけど、飲み忘れても良いと話すんだ。
偶数日か奇数日の服薬が終われば、次は曜日にする。月、水、金、→ 月、金、、、、そのうち患者さんが飲み忘れる。
その後、服薬なしでの診察が1回で終わる人もいれば、何回か続く人もいるよ。
★お薬を飲むことに関して、心配されている方は非常に多いと思います。
ラッコリンの中村道彦先生は、上記のようにお薬に関する説明をしっかり患者さんにし、患者さんの意見や同意をとても大切にします。説明と同意=インフォームドコンセントに重きを置きながら、患者さんとの共同作業で治療を進めます。
そして、患者さんの薬に対する不安を受け止め、話し合い、お互いを信頼し合いながら治療をします。
中村先生は患者さんの”良くなりたい”という思いを信頼して、お薬を処方します。ラッコリンの患者さんも中村先生の事を信頼し、お薬を飲みます。患者さんが医師を信頼していなければ、たとえよく効くお薬を飲んでも効果を発揮しないこともあります。逆に、医師の事を信頼しながら服薬していると、少量でもとても良い効果が得られることもあります。いつも対等な関係でお互いを信頼しながら治療を一緒に進めていく。これはとても大切なことだと思います。
中村先生の薬物療法と精神療法に対する考え方が、皆様の服薬に対するご不安を、少しでも軽減できることを願っております。