ラッコリンの小部屋
Youtube原稿「うつ状態 うつ病」   広島市 南区 宇品 精神科 心療内科 中村道彦は 投稿日:2020.07.30

うつ状態・うつ病

動画はこちらhttps://youtu.be/HwHDTcyHZGk

皆さん、こんにちは。私は、広島市南区の メンタルクリニック ラッコリン院長 中村道彦 といいます。

今回は「うつ状態・うつ病」について、お話をしたいと思います。うつ状態は誰もが経験し、その多くは治療を必要としないものです。現在、新型コロナウイルス感染症COVID-19の世界的流行で、多くの人が生活や生命の危険を感じながら、不安な日々を過ごしておられることと思います。この状況の中で、うつ状態や自死が、世界中で増加する可能性があります。それは、COVID-19の世界的流行が、うつ状態を引き起こす多数の要因に関わるからです。例えば、「自分が感染すること」と「自分が感染させること」の危険、在宅による育児や家事の負担増加、就学や就労の制限による学力低下や収入減少、ソーシャル・ディスタンシングによる孤立、感染症の重症化と後遺症、入院による家族・友人からの隔離、愛する人を突然失うことなど、数々の要因が関与しています。世界全域で精神面と経済面の「デプレッション」を引き起こすCOVID-19は、「パンデミック・デプレッション」と呼ぶべき、新たなうつ状態を出現させる可能性があります。パンデミック・デプレッションを誘発する要因は、気を許せばだれの身の上にも、いつでも起こりうるため、常に緊張を強いられています。この苦境の中で気概と連帯をもって、パンデミック・デプレッションを克服し、いつの日か、希望に満ちた新世界が築かれることを願います。

さて、うつ状態をもたらす要因には、生活環境、家族や素因、本人の性格や考え方、脳疾患や他の身体疾患、などがあります。生活環境に関わる出来事として、例えば、入学や卒業、就職や退職、恋愛や失恋、結婚や離婚、誕生や死別、などがあります。うつ状態をもたらす様々な要因の背後に、「喪失体験」が潜んでいます。「喪失体験」とは、愛する人物や動植物、慣れ親しんだ物品や環境などを失うことです。中でも、子ども時代に両親の離婚や死別など、愛情対象を失った経験のある人では、成人後でも小さな喪失から重いうつ状態が、起こることがあります。また、喪失したものへの依存度が大きいほど、うつ状態は強くなります。

うつ状態では、感情、意欲、思考など精神面だけでなく、身体面にも種々の症状が出現します。感情では、「気が沈む」「うっとうしい」「気が重い」など、気分の落ち込む「抑うつ気分」、「悲しい」「淋しい」といった「悲哀感」があります。意欲では、「物事を始めるのが億劫」「作業の進行が遅い」などのように、行動にブレーキのかかる「運動制止」、「やる気がしない」などの「意欲低下」、あるいは「気持ちばかり焦る」「イライラする」などの「焦燥感」がみられます。思考では、「献立を考えられない」「簡単なことが判断できない」「考えが堂々巡りをする」などのように、考えや判断にブレーキのかかった「思考制止」、「自分には何も価値がない」「お先真っ暗」「失敗ばかりの人生」などの「悲観的・自己否定的な思考」があります。一方、身体面では、「食欲なく、やせた」「何を食べても美味しくない」という「食欲低下」や「体重減少」、「寝つきが悪い」「寝た気がしない」という「入眠困難」や「熟眠障害」、あるいは「朝早く目が覚める」という「早朝覚醒」などがあります。うつ状態では、すべての症状がそろうわけではありませんが、うつ状態が重くなると、症状の数や重症度が増えてきます。

軽いうつ状態は、日常的に体験されます。例えば、期待したことが実現しなかったり、大切なものを失ったりすると、気が沈み、時に数日間、浮かぬ気持で過ごすこともあります。家族や友人に支えられ、気晴らしに映画や音楽を楽しみ、ヨガやマッサージ、運動や旅行などで、気持ちを持ち直し、日常の生活に戻ることができます。軽度のうつ状態を、ただの「スランプ」とか「体調不良」と思っている人もいます。「日常のうつ」では気分の浮き沈みがあっても、気分のベースラインは安定しています。一時的な気分の落ち込みが回復すれば、ベースラインが動いていないため、元の状態に戻ることができます。このような「日常のうつ」は、誰にもおこり、特別な治療を必要としません。薬物治療を受けることになっても、必要な時に安定薬や睡眠薬を、少量服用するだけでしょう。

一方、「非日常のうつ」では、気分の落ち込みが、数週間以上、毎日続き、生活に明らかな支障があらわれます。「非日常のうつ」では、気分のベースラインが下降し、低調なベースラインを軸にして感情が上下します。気分が一時的に回復しても、ベースラインが下がっているため、元の状態には戻れません。時に、無理をして元気に振る舞う人もいます。陽気そうに見えても、気分のベースラインは下っているため、この「空元気」は長くはもちません。「非日常のうつ」では、下降しているベースラインを持ち上げる必要があります。そのため抗うつ薬を、毎日服用します。抗うつ薬については、主治医と相談してください。

うつ状態をもたらす疾患には、精神疾患と身体疾患があります。代表的な精神疾患には、「躁うつ病」すなわち「双極性障害」、そして「うつ病」があります。この他、精神病領域では「認知症」「アルコール依存症」「統合失調症」など、神経症領域では「パニック障害」「強迫性障害」「恐怖症」「心気症」など、パーソナリティ領域では「境界性パーソナリティ」「回避性パーソナリティ」などがあります。一方、身体疾患の中では、脳神経領域、心循環器領域、肺呼吸器領域、ホルモン領域、などの疾患があります。例えば、脳神経領域では「脳腫瘍」「脳血管障害」など、心循環器領域では「心筋梗塞」「高血圧」など、肺呼吸器領域では「肺炎」「気管支喘息」など、ホルモン領域では甲状腺疾患や婦人科疾患などです。「非日常のうつ」では、専門医と相談して、基礎にある疾患を調べ、治療することが大切です。

「非日常のうつ」の治療として、抗うつ薬などの「薬物療法」や、認知行動療法などの「精神療法」がおこなわれます。いずれの治療でも7割程度の方は回復しますが、それぞれの治療の特徴を理解して受けてください。認知行動療法は、一般に抗うつ薬と併用する方が、より高い効果がえられます。通常、抗うつ薬は「数週間、毎日服用して」効果が現れ始めます。一方、副作用は、多くても「23割の方」に、服薬を始めてすぐにあらわれます。副作用は「機能的副作用」と呼ばれ、2週間前後で消えるものが多いようです。機能的副作用は、酒に例えるとわかりやすいと思います。初めて飲酒した人は、少量でも酩酊し、時に嘔吐や動悸など悪酔いをすることがあります。特別な体質でない限り、毎日飲酒しているうちに、悪酔いをしなくなり、酒を楽しめるようになります。飲み初めにおこる悪酔いが「機能的副作用」です。勿論、酒であろうと薬であろうと、個人差があります。抗うつ薬を服用して数週間は効果が少なく、それどころか副作用が出てくることもあり、抗うつ薬が自分にあっていないと思い、中断する人がいます。服薬後数週間は「待ちの時間」があることを理解してください。もう1つの注意点は、服薬に伴う「心理的な効果」があることです。初めて服薬するとき、多くの人が不安を感じます。薬に似せた無害な錠剤を「プラセボ」といいます。これを抗うつ薬として服用すると、12割の人が、抗うつ薬を服用したときと同じような副作用を訴えます。実は、抗うつ薬の副作用の半分は心理的効果によるものです。心理的効果にはプラスとマイナスがあります。「プラスの効果」では、服薬に対する前向きな期待が、薬の効果をさらに高めることになります。一方、「マイナスの効果」では、薬理学的に理解できる範囲を超える副作用が、出現することがあります。例えば、副作用が何か月も続く、あるいは通常ではみられない副作用が、出現することがあります。マイナスの心理的効果は、服薬に対して否定的な感情や考えを持つ方に多い傾向があります。中には、知人やネット検索で誤った情報を鵜呑みにし、服薬に対して偏見や誤解を持つ方もあります。ですから、副作用について主治医に話を聞き、正しい知識の下に安心して服薬してください。

以上です。ご清聴ありがとうございました。


			
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